書評: 夏への扉

僕の飼っている猫のピートは、冬になると決まって夏への扉を探しはじめる。
家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。
1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。
最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ!
そんな時、<冷凍睡眠保険>のネオンサインにひきよせられて・・・

ロバート・A・ハインライン著、原題"The Door into Summer"、いまさら紹介するのが恥ずかしいくらいの名作タイムトラベルSF。
最近、新装版文庫を見つけて再読したわけだが、いまだにタイムトラベルSF小説の最高峰であることを確信した。

何が良いかって猫とガジェットとすばらしい物語、これに尽きる。

  • ただ可愛いだけでなく、猫らしい気難しさを持つピートは、主人公のピンチを救ったり物語にも深くかかわる。引用部分のように、ある種主人公のの心象風景を象徴したような行動もとることも・・・
  • 1970年代に主人公が発明したガジェットは、ほぼすべてが多機能ロボット。小説自体が50年代に出版されているので、近い未来に天才技術者・発明家がいたらという形で書かれている。文化女中器[ハイヤード・ガール]なんていう、味のある翻訳も雰囲気があってとても良い。(今になって読み返したときに、文化女中器[ハイヤード・ガール]はほぼロボット掃除機のルンバそのものであることに気づいた。)一方で主人公が冷凍睡眠を用いて行く事になる2000年の世界には、動く歩道やタブレット端末に似た記述があって。作者の先見の明に驚かされる。文章だけで説明され、挿絵もないことから、個人的には小松崎茂の描くようなレトロフューチャーっぽい世界観を想像して読んでいた。
  • 物語については、この手の題材は何を書いてもネタバレなので具体的な言及はしない。残りページが少なくなってきて、「ここからどうやって話のケリをつけるんだろう。」という状態から、次々に伏線を回収しエンディングにいたる過程は読んでいて本当に快感。

とにかく、タイムトラベルもののSFが好きな人に限らず、小説が好きな人には読んでほしい一冊です。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)